日本・海外でのインタビュー

2017.04.27 更新

「子どもが家庭で育つ社会に向けて」ロジャー・シングルトン卿 講演 その③

日本子ども虐待防止学会 第22回学術集会 おおさか大会

2016年11月25日

日本財団 スポンサードセッション
「子どもが家庭で育つ社会に向けて」

英国 バーナードス元代表(CEO)ロジャー・シングルトン卿

「子どもが家庭で育つ社会に向けて」ロジャー・シングルトン卿 講演 その①より
「子どもが家庭で育つ社会に向けて」ロジャー・シングルトン卿 講演 その②より

◇ 建物に対する感情的な愛着

困難の中には、建物に対する感情的な愛着というものもありました。例えばとても美しい庭を備えた立派な建物、乳児院として使って欲しいと寄贈された建物もあり、寄贈者の名前を付けたものもありました。建物の閉鎖をするということは、資金提供者との繋がりを失ってしまうということも意味しました。街中の建物をデイセンターに転換するということは容易でしたが、建物は常に便利な場所にあったわけではありません。例えば辺ぴなところあった乳児院は、新しいデイセンターに容易に転換することができませんでした。
バーナードスが幸運だったのは、非常に多くの資金を持つ人が理事であったということです。彼らは必要なくなった建物は売却して新しい目的のために資金を使いなさいと言ってくれました。そこで、私たちもそのような方針を採択できたのです。もちろん寄贈者の名前は、次の建物にも付けさせていただくことで同意を得ることができました。

◇ 資金調達の困難

私たちが直面した困難の最後は、資金調達の問題でした。これについてはバーナードスの経験ではなく、いま私たちがルーモスで直面している問題について触れたいと思います。
バーナードスでは1つの機能から別の機能への資金の移動というのは比較的容易でした。単一の組織でしたし、経営者そして理事としては、例えば乳児院にもう資金をつけない、そしてデイセンターやファミリーサポートセンターに資金を移すという意思決定を容易にすることができました。
しかしルーモスでは、政府や公的機関あるいは自治体と仕事をする場合、なかなかそうはいかないとことがわかってきました。例えば、厚生省の管轄にある乳児院の運営資金を、社会福祉省が管轄である家庭へのサポートサービスに使うということができなかったのです。政府の省庁間では、資金の移動がなかなか容易ではないということです。子どものために、別の目的で使いたいと思っても、それが障壁となって、施設ベースのケアから地域社会ベースのケアへの移行が妨げられてきたのです。

◇ 脱施設化プログラムの成功のために

ベストな脱施設化を実現するポイントについて触れて行きたいと思います。ルーモスで経験したのは、政府と協力して脱施設化を成功させるには何が重要なのかということです。
まずよいプランニングが重要です。理想的には、このプランニングにあたってすべての関係者がかかわることです。また政府がすべての段階で常にコミットメントをしていくことが重要です。施設を閉鎖する日を設定してしまうのではなく、子どもにとって最善の利益を常に中心において、現実的なタイムテーブルで日程を組むことも重要です。
全てのプログラムにおいて、子どの最善の利益を中心とするためには、計画を立てる人たちが、何が最善の利益であるかを知っていることが前提となります。脱施設化を成功させるための主要な鍵となるのは、子ども一人ひとりのニーズと、家族や地域社会にどのようなリソースがあり、どのような可能性があるかという慎重なアセスメントです。単に子どもを家庭に返す、養子縁組をする、里親に任せるだけで適切な監督もサポートもなければ、破局という結果を迎えてしまいます。
子ども、そして若い人たちの意見を取り入れるということは成功するために重要だと思います。これまで施設での生活しか知らない子ども達は、これから未知の生活が始まるわけですから、恐れを抱いています。子ども達を注意深く見守り、新生活への準備をする、そしてそれは、子どもが信頼する大人がかかわって準備することが大事です。
ルーモスではいくつかのテキストを作りました。より年齢の高い子どものために、新生活への準備、手立てとなるような内容です。ルーモスのWebサイトでも公開されております。一度ご覧ください。

ルーモスのホームページ
https://wearelumos.org/
英国視察報告書はこちら
ルーモスプログラム参加など英国視察報告

■どのようなサービスが必要とされているか?
・ユニバーサルな医療、教育、社会福祉サービス
・弱い立場の子どもと家庭を対象としたサービス
・要となるところにサービスを配置する(例:産院)
・予防/家族再統合
・緊急保護
・家庭でのケア 里親制度と養子縁組制度
・極めて少数のマイノリティー児童を対象とした小規模で特別な養護施設
・社会的養護を終了するときの支援
・社会的養護の後の支援サービスここにリストアップしているのは、子ども達が入所しても、退所しても、必要になるサービスです。「こんなにあるのか」と思わないでください。理想的にはこれだけ欲しいということです。そしてみなさんの場合には、「これはできない」「現在はない」というサービスがあると思いますが、だからと言って心配しないでください。

 

◇ 資源の再投資について

先ほど、資金の移動がサービスを切り替える時に難しいと申し上げました。施設は3種類の資源を持っています。まず資金(お金)、人材、そして物質的なものです。戦略的な計画立案にあたって、これまで施設に投下していた資金を維持したまま、コミュニティにおけるサービス、中でも子ども達が本当に必要とするサービスに資金を投入しなくてはなりません。コストについては、特別な支援が必要な子どもを含めて、コミュニティや家族でケアするほうが施設よりもコストが低いということがわかっています。
もちろん個々のサービスによって高くなったり、より安価になったりしますが、全体として家族・地域ケアの方がコストは下がるということです。
また社会政策を大きく変えるわけですから、独立したモニタリングと評価が必要になります。そのプログラムが成功したかどうかという尺度は、この退所した子どもの数、あるいは閉鎖した施設の数ではありません。子どもにとってその変化がプラスになったかどうかで判断されるべきだと思います。そして財政的にそのプログラムが持続可能であるかどうかとうことも重要でしょう。

◇ 経験から得られた教訓

最後に私たちの学んだ教訓です。私の立場から日本の皆さんにこれをしなさい、あれをしなさいというつもりは一切ございません。ただここで私たちがバーナードスで学んだこと、そして現在ルーモスを通して世界各国で学んでいることを教訓として皆さんにお伝えしたいと思います。
というのも、これから改正された児童福祉法を施行するにあたって、ぜひとも私たちの過ちを知っていただきたいのです。「私たちが過去に遡れるのなら、もっと違うやり方をするのに」というポイントをお伝えいたします。

■施設入所は早く中止すべき

まず、もっと早く乳児院への入所を中止すべきであったと考えています。例えば、バスタブを空にしたいのであれば、まず蛇口を閉めなければいけません。しかし振り返ると、二つの要因があって、早く入所を中止できませんでした。
一つは、家族サポートのサービスが当時はなかったことです。特に虐待が疑われるケースについてはそうでした。乳児院を閉鎖したいということと、そしてバーナードスにしろ、政府にしろ、必要な地域でのサービスをどれだけ提供できるかというバランスを取るのが難しかった。
もう一つ、私たちはシニアの小児科医の意見を聞きすぎたのかもしれません。彼らは「障害児は施設ケアをすべきだ」という強い意見がありました。なぜ私たちが意見を通せなかったというと、地域社会に必要な設備がなかったからです。住居を改修して車椅子でも暮らせるようなサービスもありませんでした。トイレ、浴室の改修なども当時は行われておりませんでした。また重度の障害のある子どもの親のレスパイトや里親ケアもありませんでした。こうした要因のため、なかなか乳児院閉鎖を進めることができずに時間がかかりました。

■断片的な導入を避ける

バーナードスでもルーモスでも、もっと一貫性のある戦略的計画をたてる必要があったと思っています。そのためにはどんな要素が必要かということを申し上げました。振り返ると、どうしても断片的なアプローチの方がやり易いのだと思います。関与するスタッフの考え方や、地域の政治家やマネージャーの熱心さに左右されたり、退所させやすい子どもから退所させたりするような傾向は、計画が進んでいるように見えるので、そうしやすいのです。

■小規模施設の問題

ルーモスの経験から、ヨーロッパのいくつかの国では脱施設化を進めるためにEUから資金が出ている場合があります。それはいいのですが、残念なことにその資金の使われ方があまりよくありません。
ある国の例です。大規模な古い施設の替わりに、新しく小規模な施設を作った国がありました。きれいな建物、壁には絵も飾ってあります。こういった新しい施設には30名、40名の子ども達が入所しています。しかし、いくら小規模にしてもいわゆる“施設的な特徴”が消えなかったのです。政策立案者は確かに「より小さなホームが必要だ」と言う声には応えました。しかし、小規模ホームが必要となるのはごくわずかの家族がケアをする力がないような子ども達、あるいは子どもに障害がある、問題行動があって家庭でのケアが難しい子に限られる、という声は見逃していたのです。
したがって小規模ホーム(施設)が受け皿になった分、養子縁組をしなかった、里親ケアをしなかったということになります。今後また小規模ホームからの脱施設化が必要となります。結局その期間、入所した子どもが受けられたはずの家庭におけるケアを受けられなかったことになります。

■専門職の抵抗・適切な財政モデル

先ほども専門職の方々の抵抗について述べましたが、これにもっと早く対処すべきだったと思います。シニアの小児科医の先生方というのは非常に知的レベルの高い方々です。したがって、研究で判明した結果をきちんと提示すれば、検討していただけたのではないかと思います。脱施設化というイデオロギーで説得するのではなく、研究の結果を示し、それを使って説得する努力が必要だったと思います。
また公的サービスに関しては、部門ごとに予算が付きますので、子どもが必要とするケアの種類が変わった時に部門が違うと資金の移転が難しくなってしまいました。

■関係者全員についてのメリットを強調する

はっきりと教訓として出てきているのは、戦略的なアプローチを取り、サービスのあり方を施設ケアモデルから家庭ケアベースに変えなければいけません。そのために、関連する人たちがすべて参加する必要があるのです。保健部門、社会福祉、教育、そして住まいに係わる人たちが、必ずかかわる必要があります。
その戦略的なアプローチを取る際の主要な要素は、資金・資源の移動が、子ども達個人のニーズに合わせることができる財政モデルを作ることです。
どのようなプログラムであっても、脱施設化を進めるためには、前向きのはっきりとした熱意を示すリーダーシップと、問題や課題を前向きに解決していこうというアプローチが必要になります。そして子どもにとって最善なことは何か、ということを常に考えていくことが大切でしょう。ご清聴いただきましてありがとうございました。日本での成功を願っています。
(構成:林口ユキ)

【関連リンク】

政治山の記事はこちら
2017.4.25 政治山「すべての子どもに家庭を」バーナードス前CEOロジャー・シングルトン卿に聞く
GLOBEの記事はこちら
2016.12.30 朝日新聞GLOBE ロジャー・シングルトン卿×GLOBE副編集長・後藤絵里対談
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【ロジャー・シングルトン氏 発表資料】

日本語版「子どもが家庭で育つ社会にむけて」

英語版 “Toward a society where children are raised at home”